登場人物は老人が中心だ。

主役のアルヴィンを演じるリチャード・ファーンズワースが素晴らしい。娘のローズ訳のシシー・スペイセク(・・・あの、キャリーを演じた)の吃音が印象に残る。

初めて世界市場に受け入れられた日本人芸術家、村上隆のインタビューで、これからの日本および世界のテーマは長くなった寿命にアートはどう答えるかだ、と言っていた。

世界一二の経済大国であり、長寿国日本では、世界一老人の自殺が多い。最近の報道では、老人の犯罪者の数が激増しているという。

二十年もインドネシアに暮らしている知人が、なぜ、日本で高齢者の自殺がこんなに多いんだ、と不思議がっていた。インドネシア人には理解できないという。インドネシアでは40代、50代で死んでしまう人が多いので、高齢者が珍しく、高齢だと言うだけで人々の尊敬を受けるという。

「ストレイト・ストーリー」は「マルホランド ドライブ」のデイヴィッド・リンチの作品。

冒頭から非現実的な感じが面白い。ごく普通の風景を鮮明にとらえているだけなのだが、何ごとか起こりそうな不穏な空気に満ちている。

説明はごく短く、頑固でやっかいな老人であるアルヴィンが描かれる。

淡々としたエピソードの積み重ねすべてが心に染みてくる。押しつけがましい演出が一切ないのだが、画面の隅々に、見ればわかるアルヴィンを囲む人物たちの気持が描かれる。

アルヴィンが「老い」について若者に語る言葉がいい。

「若いときは自分が老人になるなんて思っても見なかった。」「目も足も悪くなっていいことなんかないが、経験だけは積む。いいものと悪いもの、実と殻の違いがわかるようになるのがいい。」

若者が尋ねる。「老人になって良くないことは?」

アルヴィンの答え。「最悪なのは、若いときのことをはっきり覚えていることさ。」

今朝、テレビでやっていたので見始めたら最後まで見てしまった。四回目かな?

普通に見える場面でも、デイヴィッド・リンチの狂ったような演出があって面白い。燃えさかる木造の納屋をバックに坂道を暴走するアルヴィンの乗ったトラクタ・・・とか。

戦争中の話しをする老人二人の場面は忘れられない印象を残す。

嫌でも人間はやがて高齢者と呼ばれる年代になっていく。人類がかつて経験したことのない高齢者社会がもうすでに始まっている。

日本でも100歳以上の人が何万人もいる。高齢になって何を楽しむか。かつての「老人ホーム」のお遊戯では満足できない高齢者が大量に存在してくる。

高齢者に共感を得られる娯楽や芸術、テレビ番組、商品、映画、アニメが必ずあるべきだ。

この「ストレイト・ストーリー」は意外に深いな。

リチャード・ファーンズワース/ストレイト・ストーリー

¥3,990