新潮文庫の原卓也訳「賭博者」だ。昨日は朝から死ぬほど暇だったので、一気に読了。

これは面白い。めんどくさい独り善がりの議論が延々と続き、前半の第8章までは退屈で仕方がないが、第九章の直前から、爆発的に面白くなって一気に読めた。

夏はものすごく暇なので、毎年ドストエフスキーを読むことに決めた。

昨年は、誤訳・不適切訳でおなじみの亀山モデル「カラマーゾフ」を読んだ。途中で、亀山訳のうさん臭さが鼻につき始め、読み進めなくなり、新潮文庫版・原卓也訳に乗り換えた。

「賭博者」は、ルーレットにのめり込む主人公と、周りの怪しい人物たちのもったいぶったやりとりが描かれている。周りの人物たちは、恐ろしいほどに低俗な貴族と貴族気取りの愚か者ばかり。

主人公も周りの人物たちも、ことごとく愚行に明け暮れる。愚行権の行使だ。誰にも止められない。

金が金を生む、という投機の世界の愚かさと熱狂をリアルに描いていて、これはまさに現代人の姿だ。

ドストエフスキー本人が描きたかったのは、外国にいるロシア人の一つの姿だそうだが、外国人に対する劣等感や、キリスト教を軽視する態度など、現代日本人の姿に見えてくる。

このあたりがドストエフスキーの預言者的なところだ。人間の本質を深く洞察するあまり、どの時代のどこの世界の人間にもあてはまる人間の姿を、きわめて特殊な状況の主人公を通して描いてしまう。そういうことだ。

今度は何を読もう。「白痴」か「虐げられた人々」か。楽しみだ。
賭博者 (新潮文庫)/ドストエフスキー

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