映画の冒頭、ヘブル文字とアラビア文字が併記されるタイトルにまず感激。わくわくする。

現代軍事侵略国家のイスラエルとエジプトはかつて何度も戦火を交えた敵国同志。古くは、かのモーセがエジプトから奴隷にされていたユダヤ民族を連れ出すという、出エジプトの物語にも遡る。チャールトン・ヘストン主演のハリウッド映画「十戒」でおなじみ。

エジプトに売られたヨセフの物語もある。ヨセフがその後、エジプトのパロ(ファラオ)になって、自分を売った兄弟たちと再開する場面など、涙なくしては語れない。さまざまな物語に満ちているエジプトとイスラエル。

緊張に満ち、愛憎半ばする両国関係だが、この映画の主人公、アレキサンドリアの警察音楽隊、総勢6人は至って牧歌的なイスラエルの田舎町にぽつんと取り残される。アラブ文化センタの招きでコンサートに来たのだが、手違いで誰も迎えに来ていない。

さてどうしよう。

生真面目で厳格な警察音楽隊長が率いる、アラブの古典音楽オーケストラのメンバーと、ごく普通のユダヤ人たちのぎくしゃくした交流の様子がほのぼのと描かれる。

迷子の警察音楽隊

¥3,591

たった一晩の交流の様子なのだが、登場人物それぞれの味わい深いエピソードが語られる。

以下に思いつくまま順序も適当に書いてみる。

厳格で頑固な隊長とその下で二十年も副指揮者として仕えるクラリネット奏者、シモン。シモンはまわりによくあんな隊長と付き合っていられるな、などと言われている。万年副指揮者。クラリネット協奏曲も作ってみたが、完成させることが出来ない。泊めてもらったユダヤ人家族の家で、途中まで出来た曲の演奏をする。ユダヤ人の青年が、曲の最後の部分について語る。「トランペットやヴァイオリンでにぎやかにするのではなく、静かに終わるのはどうだろう。例えば・・・この小さな部屋のように・・一人でいて・・・」青年の子供が、小さなベッドで寝ている。枕元に赤ん坊をあやすオルゴールがある。ひもを引くと、なんとも哀愁をおびた響きが・・・。重なってくる弦楽器とクラリネットの音楽・・。いい場面だなあ!!

食堂の女主人の家に泊めてもらった隊長。女主人と親しくなっていく。食事のあと、自らの家族の話をする。切ない物語だ。厳格で生真面目な隊長だが、音楽隊の秩序を乱す若者の失敗を寛容に許す。

90分の短い映画で、事件と言えるようなことは何も起こらない映画だが、心に残る作品だ。

一晩の交流で、それぞれがほんの少し何かを得て去って行く。その感じがとてもいい。

最後の隊長の歌が素晴らしい。アラブの文化の花を感じることが出来た。