朝からバッハのゴールドベルク変奏曲のテーマの部分だけがエンドレスで流されている。

今も流れていることだろう。おぞましい。愚劣で乱暴な衆愚を思う。

立川を時々使うが、ある日、朝聞いて「鬱陶しいな」と思い、同じ日の夕方に通りかかったら、まったく同じ調子で流れているので、怒りがこみ上げた。

思い出したので、怒りをこめてここに書き留めておく。

言うまでもなく、グレン・グールドの新旧の録音で聞く俺にとって「ゴールドベルク変奏曲」は大切な一曲だ。

映画「羊たちの沈黙」でも、凄惨な殺人場面に静寂の代わりにこの曲が流れ、ハンニバル・レクターの異常性が際立った。

グールドの録音を聞くと、冒頭のテーマの提示と変奏の後のテーマの再現が虚無感に満たされていて、もう一度最初から聞きなおしてしまう。ピアノで演奏される曲の中で、これほどの静寂と畏怖を感じる音楽はない。グールドの孤高な演奏とあいまって、もはや「神聖」な音楽なのだ。

そのような曲を、ただただ無駄に雑踏に流し続ける鈍感さ!!!

静かな環境で、じっと聞いていたい曲が、拡声器で朝から晩まで雑踏に流される、この無神経さ。

苛立つ。

すべての駅の構内の音楽が大嫌いだ。うるさい。聞きたくない。腹立たしい。